なずなのねいろ3巻(完結)ともしも…の話

※2月12日に『なずなのねいろ 3 (リュウコミックス)』が発売されました。このエントリーはマンガ『なずなのねいろ』のネタバレあります。



いやー、終わってしまいました。
帯のアオリは

音と心と身体が いま結びつく!
青春♥三味線物語 ここに完結!!

でした。


おそらく、三味線マンガというジャンルでは、第一人者だったと思います。
そうした未知の、だれも描いていないマンガのジャンルをすすむ道は、きっとものすごく大変だったと思います。
しかし、この3巻で終わっちゃったワケですが、すごく、すごーくもったいないです。
終わり方は、これからの未来を予感させるようなシーンで、とても良かったのですが…。
でも、なんていうか、自分としては残念すぎるので、ちょっと、自分のこころの整理のために、まとめておこうと思います。


@3巻の印象
なずなのねいろ 3 (リュウコミックス)いきなり、なずな3巻の印象というか、レビューから入ります。
ので、まだ、このマンガを読んでないひと、これから読もうかなーと思う人には思いっきりネタバレです。
ネタバレの文章って、これから、この作品に出会う人にとっては、よくないモノだと思うので、ここから先は、完全に自己満の文章です。


まず、この3巻を読んで思うことは、それは三味線という主題ではなくて、違う点に目が行ってしまいました。
それは、作品を通して伝わる「眠気」です。
主要な登場人物のほぼ全てが、作品中に寝ています。
こんな展開のマンガを、おれは他に知りません。
スゥちゃん&伊賀くんは、部活の準備中にひなたぼっこして寝ちゃうし。
たまの出番の沢田君も、わざわざ学校にきてまで、教室で寝ちゃってるし。
眞さん&花梨さんは、性的な意味で寝ちゃうし。
メインの撫菜《なずな》は、1巻の冒頭シーンから、いちごパンツ全開で、電車のなかで寝ていましたね。
作者のナヲコせんせーは、よっぽど、この作品を描いてるときに眠かったか、もしくは、寝るのが好きなんでしょうな(笑)。
以前、テレビで内Pかなにかで、さまぁ〜ずがボケをやるシーンで「寝るボケ」が多くて、なぜそれをやるのかっていうと「実際に眠いから」って解説していたのを思い出しました。


<もしも…だったら>マンガを読んで、もしも…だったら、という妄想は、ホントに読者の勝手なアレでしかないけども、少し書きます。
このマンガを、同じ題材=三味線マンガということで、アレンジするとしたら、おれだったらどうするかなーという妄想です。
ポイントは2つです。
「エロの抑制」と「主人公の見直し」です。って、大きく出ましたな>おれ。

@エロの抑制
このマンガでは、なずなと伊賀君の二人の高校生が主人公ですが、この二人をさしおいて、まわりのキャラクターがエロいことをどんどんします。
叔父と姪のカップルである、眞さん&花梨さんは、まんませっくすしーんや、お風呂でイチャイチャもありますし。
脇役である、沢田君&ハルコちゃんは、しょっぱなからキスしたり、すぐに呼び捨てにと、エロい雰囲気だしまくりです。
もしも、メインコンビである、伊賀君となずなの二人が、そこまで親密になるまで描かれるなら、話は別ですが、まわりのキャラが急にエロいことをする展開が、あまりに唐突すぎて読者は混乱します。
少なくとも、おれは混乱しました。
エロって、人間の行動の基本にあったりするので、すごく大事なポイントではあると思います。
でも、三味線マンガでは、あくまで主役は三味線をヤルことが主題である方が、スッキリして分かりやすいと思います。
もし「三味線やってモテよう!」がコンセプトにあるなら、三味線+エロもアリだと思いますけど…。
でも『なずなのねいろ』は、そいういうマンガではないですよね?


@主人公の見直し
さらに、ここ踏み込んで、「主人公の見直し」まで、考えます。
ハッキリと、イキすぎですが、「もしも、なずなのねいろが…」という妄想がおさまらなかった、悪い例の文章ですので、書いてしまいます。
さて、本題に入る前に、このマンガの主人公のポイントをあげますと。

  • 主人公:なずな。女子高生(2年)。三味線がうまい。家族構成が複雑。不倫したすえの娘。かつて実の両親からは捨てられて、現在は血のつながらない母と姉と暮らしている。実の父親&母親は失踪。本来の母親は手首に包帯して病院にいたシーンあり(自殺未遂?)。血のつながらない姉は、母親の弟にあたる叔父とセックスしてる。なずなはその叔父に三味線を教えてる。
  • サブ:伊賀君。男子高生(1年)。バンドでギターをしている。三味線は初心者。家族構成不明。純情。Macを使ってる。

こうした二人が、メインです。
なんでしょう、ヒロインのなずながドロドロしすぎています(笑)。
それに比べて、伊賀君はスッキリしていますね。


最初のキャラ付けは、もっとシンプルで分かりやすくてよいと思います。
なので、思い切ってこうします。

  • 主人公:なずな。女性。三味線ができる
  • サブ:伊賀君。男性。三味線ができない

キャラ付けはハッキリしました。
でも、実は、ここにこそ、ポイントがあります。
この、構成では、三味線マンガという新しいジャンルを切り開くには、役不足なのです。
キャラ付けが、全く逆なのです。


<他のマンガの例>
「キャラ付けが逆」の意味を述べる前に、他のマンガの例を挙げようとおもいます。
おれの好きなマンガは、普段の生活では意識してなかったけど、マンガをとおすことで見えてくる新しい日常、というジャンルがすきです。
そうしたマンガでは、キャラはどのようになっているかを、考えてみます。



ヒカルの碁
ヒカルの碁 1 (ジャンプコミックス)たとえば、囲碁をはじめてマンガにした『ヒカルの碁』というマンガがあります。
おれはこのマンガで囲碁を知ったのですが、このメインキャラは実にシンプルです。

  • 主人公:ヒカル。小学生男子。囲碁に全く興味のない(初心者)。
  • サブ:藤原佐為。平安時代の幽霊。囲碁の神の一手を目指す(上級者)。



BECK
BECK(1) (KCデラックス)音楽関連つながりのマンガをあげるなら、バンドマンガの『BECK』があります。
バンドマンガという、マンガで音を表現するジャンルの、先駆者といえる作品です。

  • 主人公:コユキ。中学2年生。平凡な学生(初心者)。
  • サブ:南竜介。謎の16歳。ギターのテクニックがハンパじゃない(上級者)。



ちはやふる
ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)たとえば、百人一首をテーマにした『ちはやふる』というマンガがあります。
おれはこのマンガで、百人一首の大会や、名人戦などがあると知りました。
こちらの最初の構成も、実にシンプルです。

  • 主人公:綾瀬千早。小学生女子。百人一首でぼろ負ける(初心者)。
  • サブ:綿谷新。転校生男子。百人一首で名人になるのが夢(上級者)。



@花もて語れ
花もて語れ 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)このイマカコミライでも紹介した、朗読をテーマにした『花もて語れ』も、再度あげます。

  • 主人公:ハナちゃん小学1年生。話すのが苦手でも朗読の才能がある(初心者)。
  • サブ:教育実習の先生。朗読のポイントを教えることができる(上級者)。



アイシールド21
アイシールド21 1 (ジャンプコミックス)アメフトという、これまた、普段あまり接する機会がすくないスポーツをテーマにしたマンガ『アイシールド21』も、キャラをあげます。

  • 主人公:小早川 瀬那。高校1年生。スポーツ経験なし(初心者)。
  • サブ:蛭魔 妖一&栗田 良寛。高校2年生。アメフト経験者(上級者)。

サブは複数(二人)いても、構いません。



スラムダンク
SLAM DUNK 1 (ジャンプコミックス)このマンガは、バスケットマンガの金字塔(ってよく言われる)ので、知らない人は少ないでしょうが。
あえてキャラの紹介をあげます。

  • 主人公:桜木花道。高校1年生。バスケットなんてやったことない(初心者)。
  • サブ:流川楓。高校1年生。期待のルーキー(上級者)。

でも、連載前の、読み切りのときは流川が主人公だったのを知ってますか?
ジャンプで連載するときに、あえて、新しい桜木をメインにすえて、スタートした理由が分かりますか?


ここまで、くりかえして、マンガの例をあげたので気づくと思いますが「主人公は初心者だ」ということが共通している点です。
もっというと、「あまり知られていないモノをテーマにしたマンガほど、主人公は初心者だ」ということです。
読者が知らない世界をテーマにしたマンガというのは、そのテーマについて、かみ砕いて、読者に分かってもらう必要があります。
その場合、読者は当然そのテーマの「初心者」なのです。
囲碁に興味のないヒカルのように、どこにでもいるような中学生のコユキのように、カルタで1枚もとれない千早のように、人前で本を読むことができないハナちゃんのように、アメフト経験ないセナのように、バスケのルールすらしらない桜木花道のように、読者はまるっきり初心者なのです。
だから、主人公は初心者でなくてはならず、主人公が成長することを描くうちに、読者もそのテーマについて、より深くしり、興味がわき、自分でもやってみたいかも!と思うくらいにのめりこめるんです。
主人公=初心者=読者が、ともに成長していく、というストーリーだからこそ、読者から共感を得られるんです。


<なずなのねいろの主人公は?>
こうした、マンガのセオリーから『なずなのねいろ』をみると、キャラの配役が、少しずれていることが分かります。
現在の配役は、

  • 主人公:なずな。女性。三味線ができる。(上級者)
  • サブ:伊賀君。男性。三味線ができない。(初心者)

となります。
でも、これでは、主人公が上級者であるため、読者が感情移入するときに、主人公の気持ちと一致しないのです。
むしろ、伊賀君にこそ、主人公としての素質=三味線の初心者である、が備わっていると言えます。
そうすると『なずなのねいろ』というマンガのタイトルから、ズレてしまいますけどね(笑)。
もしくは、なずなを主人公のままで据え置くとしたら、その代わりに三味線を弾ける能力を取り上げる、必要がありますね。
どちらにしても、主人公は初心者からスタートして、そこから三味線の魅力を知っていく、というようなストーリーになっていたら、読者の方も読み進め方が違うでしょうし、いまとは全く違った話の進み方になってたでしょうな。
もしも、おれが配役するならば、

  • 主人公:後夜祭でなずなの演奏をみたAくん。男性。楽器経験はゼロのひと(超初心者)。
  • サブ:後夜祭で演奏した後のなずな。女性。三味線が弾ける(上級者)。

というカタチで、『Aくんの三味線』という、サイドストーリーからスタートしましょうか。
…という長い、長い妄想文章でした。



ここまでぐだぐだと述べてきましたが、『なずなのねいろ』というマンガを、おれは好きです。
本当に、三味線マンガという新しいジャンルに挑戦したナヲコせんせーには拍手を送りたいと思います。
これから、三味線マンガが世に出て行くとしたら、そのきっかけを切り開いたパイオニアが、ナヲコせんせーであることは、揺るぎない事実なのですから。
なずなを生み出してくれてありがとうございます。
お疲れ様でした!